近いからこそ言いづらい本音、10名以下の職場にも「第三者面談」
本音が見えない。伝えたいことが、伝わっていないかもしれない。
経営陣と現場との距離感やコミュニケーションの齟齬に、悩む企業も多いのではないでしょうか。
大手企業の悩みのようにも思えますが、小規模だからこそ当事者同士で話しにくいこともあります。
2012年に創業し、金属の切削・加工を手掛ける大鉄精工株式会社(埼玉県三郷市)は、従業員数10名以下。
「近い距離だから言いにくいこともある」との課題を抱えており、2023年12月、アールナインに相談していただきました。
アールナインが提供しているのは、定期的に従業員の話を聞く「第三者面談」。
外部の第三者だからこそ引き出せる本音をもとに、企業の課題改善に伴走します。
「公正な第三者の専門家に話を聞いてもらって気付くこともある。面談は今いる人を大事にする一つの有効な方法」と話す木下社長に、
詳しい所感を伺います。
◆私が話を聞いても立場上、対等にならない
――2024年1月から、3か月に一度の頻度で9月までに計3回、従業員の方との1対1の面談に入らせていただいています。
改めてアールナインに依頼をいただいた背景を教えて下さい。
社内の雰囲気を変えたいと思っていました。
技術職は「技術を持つ人が強い」という雰囲気があります。社内で一番技術がある私に意見したり、
質問したりしにくい人がいるのではないかと案じていました。逆に、私も教え方に悩む部分がありました。
金属加工は正解がはっきりした仕事です。
従業員の仕事を見て「そのやり方ではうまくいかない」と感じても毎回そのまま伝えると「何をやっても否定される」と感じさせてしまいます。
悩んでいた時、長くお付き合いのある仕事の関係者から「従業員の話を聞く人がいて、気持ちが楽になれば良いよね。
そういうサービスを提供する会社がある」と、アールナインを紹介されました。
――木下様自身が、従業員との距離感の問題に対して、何か手を打ちたいと思っていたのですね。
そうです。私が話を聞いても社長という立場上、対等になりません。
若い頃から先輩に怒られつつ、質問して技術を磨いた経験もあるので「叱られても聞けば良いのに」とも考えがちです。
性格や育った環境は人によって違いますね。
――どんな結果や効果が得られるか、やってみないとわからない面談ですが、
「社外の人の力を借りるほどのことなのか」「自分たちで何とかできるのではないか」と、導入を迷うことはありませんでしたか。
むしろ、やってみないとわからないから、一度面談を頼んでみようと思いました。
失敗しても、何もしないよりはする方が良い。結果的に、とても意義を感じています。
◆「たぶん、こう思っているのかな」から「実際にそうだったのか」へ
――初回の面談結果を受け「何となくモヤモヤとしていた従業員との距離感が近くなった」と伺いました。
具体的にどのような点でモヤモヤが減ったのでしょうか。
「たぶん、心の中ではこう思っているのかな」と私が推測していたことが、
「実際にそうだったんだ」に変わったことが大きかったです。
具体的に私が変えるべき点も可視化できました。
アールナインから上がって来る報告の中には、想定内の話も想定外の話もありましたね。
――想定外だったことは何でしょうか。
私が思う以上に、前向きに成長していきたいと考えている従業員もいたことです。
技術はすぐに身に付かないし、皆つらいと思っているかと思いましたが、
助言や指導を素直に受け取ってくれている人もいることもわかりました。
それを本人の口から言葉にしてくれたことが大きかったです。
――逆に木下様ご自身は、何を改善しないといけないと感じられたのでしょうか。
伝え方や教え方ですね。
説明しているつもりで、伝わっていないこともあります。
言ったはずなのに理解されず、何度も同じことを聞かれると「なんで」と思いがちですが、
踏み込んで説明し、重ねてやりとりする必要があるとわかりました。
相手にも言いたいことがあります。コミュニケーションは、互いに練習が必要ですね。
――定期的な面談として2回目以降も継続を決めていただいたのはなぜですか。
人の考えは変わっていくからです。逆に性格や癖はすぐに直せません。継続に意味があると思いました。
私も目の前の仕事が忙しいと、改善点を忘れる時もあります。
3か月ごとに報告を聞いて「そうだった」と自分を見つめ直す時間も必要ですね。
「会社全体としてこういう傾向があるとわかったので、こう変えていく」と、従業員の前でも伝えるようにしています。
◆何か起きる前に気づくための防波堤
――木下様のお話の前提には、今いる人材に定着してほしい思いがありますね。
人が辞めても、すぐに集まるという考えは、うちには当てはまりません。
技術の習得に時間がかかり、お客様との関係も築かないといけない。離職が起きると、売り上げにも響きます。
――ご自身への厳しい声も冷静に受け止められるのは、そうした心構えからでしょうか。
それもありますが、一番つらいのは会社を去られることです。
この小さな規模で「会社が嫌」と言われると、自分に問題があったのではないかと苦しみます。
私も完璧な人間ではありません。事前に察知できていない厳しい声も含めて、共有してもらう方が良いと思っています。
――これまで3回の面談を終えて、いかがでしょうか。
やはり私が意見を言いやすい空気を作り、従業員も適切に意見を言えるように成長することが大事と思いました。
互いに「言っても仕方がない」ではなく、伝える努力ですね。
アールナインのような第三者を介しても構いません。
自分たちだけで何とかしようとして、三歩進んで五歩下がるより、二歩下がった時点で気づいて踏み留まり、
何か起きる前にフォローした方が良い。
そういう防波堤にアールナインはいると思います。
◆関係ないと思っている小さな企業にこそ有意義
――経営陣と現場の距離感や、従業員の本音がわからないといった課題を聞くと、
大手企業を想像する方もいるかもしれませんが、小規模な企業にこその悩みもあるのですね。
うちのような小規模の会社には関係ないと思っている企業にこそ、こういう面談は意味があると私は思います。
距離の近さゆえに当事者間では言えないことがあります。
特に10名以下の町工場だと皆を引っ張るリーダーと、黙って付いていく従業員という構図になりがちで、
全員対等にはなりづらい。
家族経営でも、言いたいことが言えない会社もあると思います。
公正な外部の第三者が入り、話を聞く意義は大きい。
人手不足だからこそ人間関係や社内の雰囲気を理由とする離職はもったいなく、改善したい経営者も多いはずです。
――アールナインに依頼いただいた背景には、木下様に質問したり、意見したりしやすくなることで、最終的には従業員の方々の技術の向上につながってほしいというお考えもあったのでしょうか。
もちろん技術の向上につながれば一番です。
ただ、まずは社内の雰囲気を良くすること自体を目標に置いても良いのではないかと、考えていました。
仕事ができる、できない以前に、ストレスなく働きたい思いは多くの人が持っていると思います。
どんな仕事にもつらい瞬間はありますが、その気持ちがマイナスに傾きすぎると良くない。
外部の専門家の力を借りることは、せっかく今いる人を大事にする一つの有効な方法だと思っています。