採用フレームワーク「TMP」の設計とは?中小企業が「なんとなくの採用」から脱却するための採用戦略
公開日: 2021年01月08日 | 最終更新日: 2025年05月19日

中小企業が採用戦略を立てたり、振り返る際に、「どこから考えればいいか分からない」というお声をよく耳にします。そんなときに基盤になるフレームワークが「TMP」です。
職種・要件・訴求ポイントを整理して、再現性のある採用戦略をつくる型として、今注目されています。
この記事では、15年以上の採用支援実績のあるアールナインが、採用設計の土台を整える「TMP」の考え方と活用法をわかりやすく解説します。
戦略的に採用を進めたい方は、ぜひご覧ください。
採用におけるTMPとは?
TMPとは採用設計におけるフレームワークです
採用設計を考える際に、まずどのような人材を採用したいのかを定義することを「ターゲッティング(Targeting)」といいます。どのような魅力訴求がターゲットに刺さりそうかを考えることを「メッセージング(Messaging)」といい、さらにターゲットを見極め、魅力付けができるような選考プロセスを設計していくことを「プロセシング(Processing)」といいます。

なぜ今、中小企業にとってTMPが重要なのか?
そもそも、なぜ採用活動においてTMPを設計することが重要なのでしょうか。
特に多くの中小企業にとって、「誰を採るのか」「何を伝えるのか」「どう進めるのか」が曖昧なまま走り出してしまうケースは、決して珍しくありません。
- 「ターゲットがフワフワしたまま、とりあえず求人を掲載する・エージェントと契約する」
- 「候補者が来たら面接をしながら、合否を判断する」
- 「なんとなく“良さそう”な人がいれば採用する」
このような状態では、採用の軸が定まらず、結果として次のような事態に陥りやすくなります。
- エージェントから良い人材が紹介されない
- 魅力が伝わらず選考中に辞退が相次ぎ、歩留まりが悪化
- 現場と採用チームの間で「誰を採りたいのか」がすれ違っており、面接官によって評価基準がバラバラ
- 属人的な採用活動になっており、再現性がない
採用の売り手市場化が進む中、中小企業が勝ち抜くためには「誰に」「何の魅力を」「どのように伝えるか」をまず設計し、選ばれる仕組み作りを行っていく必要があります。
このような“なんとなく採用”から脱却し、設計された「選ばれる」採用活動へとシフトするための実践的なフレームワークが、TMP(ターゲッティング・メッセージング・プロセシング)です。
ターゲッティング(Targeting)設計の4ステップ
ターゲティングとは、「自社にとって活躍・定着しやすい人材の条件を、定性的・定量的に整理して、採用活動の軸を明確にする」ことです。

① ハイパフォーマーから理想の人物像を逆算する
まずは、社内の優秀人材に共通する特徴を洗い出しましょう。
ここでのポイントは「ポジションが同じ」だけではなく、「成果を上げている/定着している」という実績に基づいて共通項を探すことです。
例:
- 【学歴・資格】大卒以上/教員免許/情報処理資格など
- 【勤務地】地元志向/転勤NG/リモート経験あり
- 【職歴】職種・業種・企業規模・プロジェクト経験
- 【営業職の場合】提案スタイル/営業サイクル/取り扱い製品 など
「前職が人材業界」などのラベルではなく、なぜ活躍したのか=行動特性や価値観に着目するのがポイントです。
② データを活用して傾向値を定量的に掴む
ターゲット設計には「定量的な視点」も欠かせません。
適性検査やSPIなどを使って、活躍人材のスコア傾向や、どのチャネルから来た候補者が定着しているかといった情報を数値で確認しましょう。
例:
- SPIのストレス耐性が高い人ほど活躍している
- 人材紹介A社経由の内定者は離職率が低い
- 書類通過率や承諾率の高い求人媒体に傾向がある
主観ではなくデータに基づく意思決定が、ミスマッチのないターゲティングにつながります。
③ 現場や経営陣と人材要件について認識を揃える
人事部門だけでターゲットを決めるのではなく、現場・経営層と認識を揃えることが重要です。
現場との対話では、日々の業務に即した“リアルな要件”を引き出すことが目的です。以下のような問いが効果的です。
- このポジションで成果を出している人は、どんな特徴があるか?
- 実務で求められるスキル・経験・スタンスは何か?
- 面接でどんな観点を見ていて、どこで見極めているか?
- 配属後に苦戦する人は、どんなタイプか?
こうした情報は、採用要件や面接評価項目の設計、育成前提の可否判断に直結します。「こういう人が来ても、育成が難しい」「このレベルまでは現場でフォローできる」など、現場ならではの“線引き”も貴重です。
一方で、経営層との対話では「この先の事業計画を支えるために、どんな人材が必要か?」といった中長期視点の議論が重要です。
- 今後の事業戦略・組織拡大において、どんな役割を担う人材が必要か?
- 将来の幹部候補やリーダーに求める資質は何か?
- 社風にフィットする人の価値観や志向性とは?
経営層の視点は、“5年後の会社に必要な人材”という観点での示唆をくれます。
これにより、今の現場ニーズだけでなく、先を見据えた「将来の戦力」像も含めた設計が可能になります。
④ 外部のトレンド情報を収集する
業界内で競合となる企業がどんな人材を採用し、どのように求人を出しているかも参考になります。
たとえば、
- 競合の求人票に出ている人物像や条件
- 採用成功事例に見られる共通パターン
- HR業界の動向やスカウト施策の変化 など
これらを把握することで、自社だけで閉じない、客観的なターゲット像を描くことができます。
メッセージング(Messaging)設計の3ステップ
ターゲットが明確になったら、次に重要なのは「何を伝えるか」です。採用競争が激しい現在では、ただ自社の魅力を語るだけでは候補者の心に響きません。大切なのは、「その候補者が本当に求めていること=インサイト」に沿った訴求を行うことです。

①「学生や候補者が就職先・転職先に何を望んでいるのか?」を見極める
例えば中途採用の場合、候補者が転職を考える背景には、現職に対する具体的な不満があります。
- 提案の幅が狭い
- 裁量がない
- 自分のキャリアパスが描けない
- マネジメント機会がない
- 残業が多い など
こうした不満の奥には、「もっと顧客に深く向き合いたい」「スピード感ある環境で挑戦したい」「裁量を持って意思決定したい」「ワークライフバランスを整えたい」といった“キャリアインサイト”が潜んでいます。
これらは新卒採用でも同様です。学生時代のあらゆる意思決定の背景に、学生の価値観が表れているはずです。このインサイトを拾い上げることが、メッセージングの出発点になります。

②「自社の魅力」と「インサイト」の交差点を言語化する
ただし、候補者の願望をなぞるだけでは差別化になりません。他社も似たようなことを言っている可能性が高いため、「自社だからこそ提供できる魅力」と掛け合わせて伝える必要があります。
たとえば、以下のように整理できます。
キャリアに求めるインサイト 自社の訴求ポイント(例)
・提案の幅を広げたい
→採用の母集団形成~定着・育成まで、顧客に合わせた幅広い提案ができる
・主体的に働きたい
→「まずやってみよう」会社を良くするための提案を上長が賞賛・応援する社風
・成長したい
→配属2年目でマネージャー昇格者多数。社歴に関係なく抜擢される評価制度。
このように、候補者の「心の声」に応える形で、自社ならではの魅力を言語化することがメッセージングの本質です。

③競合とのポジショニングを言語化する
最後は採用競合との差別化です。候補者は複数社を並行して見ているため、「他社と比べて打ち出している魅力は似ているが、条件面では劣る」といったケースが発生してしまうと、選ばれる理由がなくなってしまいます。
採用競合に対する優位性は何か、明確に言語化しておくことが重要です。
- 他社が強調していない“育成環境”
- 珍しい評価制度や制度設計
- 事業・人間関係・カルチャーの特徴
など、差別化ポイントは必ずどこかにあります。
②に加え、競合に対するポジショニングをしっかりととりましょう。
プロセシング(Processing)設計の4ステップ
いくら良いターゲット設計やメッセージを持っていても、それが選考フローの中で適切に伝わらなければ意味がありません。
Processing(プロセシング)は、初期接点から内定承諾までを一貫したストーリーとして設計し、候補者に“体験”として届けるための重要なパートです。

①カジュアル面談の導入で「最初の接点」を設計する
選考序盤で、志望意欲が高くない候補者とどう向き合うか。ここで有効なのがカジュアル面談です。
カジュアル面談は、選考ではなく「情報交換の場」として設けることで、候補者のハードルを下げ、初期接点の母集団を広げる効果があります。また、現職や前職での不満・志向性などから“キャリアに求めるインサイト”を深掘りし、後のメッセージングや面接での訴求に活用できます。
②「選ばれる」面接を意識する
面接は、評価だけでなく魅力付けの場でもあります。
特に候補者のインサイトに応じたメッセージを伝えることで、相手の納得感やエンゲージメントが高まり、選考途中での辞退リスクを下げることができます。逆質問への回答や、面接官の姿勢・トーンもCXに大きく影響するため、「この会社なら信頼できそう」と感じてもらえる設計が必要です。
③オファー面談・内定者フォロー面談で懸念を払拭する
内定後の辞退を防ぐには、選考通過後にも丁寧なコミュニケーションが重要です。
オファー面談を通じて、候補者が抱く懸念(待遇、制度、キャリアパスなど)を率直に確認し、一つずつ解消していくことで、安心して承諾できる状態をつくります。「不安をきちんと解消してくれる会社」と感じてもらえれば、入社後の期待値ともズレにくくなります。
④接点の間隔を空けず、リードタイムを短縮する
候補者は複数社の選考を並行して受けているケースがほとんどです。選考ステップの間隔が空くと、他社に流れてしまう可能性が高まります。
例えば中途採用の理想は、初回接点から内定承諾までを2〜3週間以内で完結させること。どうしても時間がかかる場合も、間に定期的な接点を設けることで、志望度の維持や不安の解消が可能です。新卒採用の場合、選考期間が長くなるのは避けられないので、接点の間隔を空けないよう、迅速に合否連絡・日程調整を行いましょう。
まとめ
誰を採るのか(ターゲティング)を明確にし、どんな魅力を伝えるのか(メッセージング)を言語化し、それをどう順序立てて伝えていくか(プロセシング)を設計する。
この3つがかみ合ってはじめて、応募が集まり、辞退を防ぎ、自社にマッチした人材を迎え入れることができます。
アールナインでは、15年770社以上の採用支援実績をもとに、採用戦略の立案から、媒体運用・スカウト・面接調整までを一気通貫で支援する採用代行サービス「人事ライト」を提供しています。
採用戦略にお悩みの方や、「何から始めればいいかわからない」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。

この記事の監修者:
1999年青山学院大学経済学部卒業。株式会社リクルートエイブリック(現リクルート)に入社。 連続MVP受賞などトップセールスとして活躍後、2009年に人材採用支援会社、株式会社アールナインを設立。 これまでに2,000社を超える経営者・採用担当者の相談や、5,000人を超える就職・転職の相談実績を持つ。