人事異動の内示・伝え方で変わるコミュニケーションのポイント


人事異動の内示・伝え方で変わるコミュニケーションのポイント

人事異動は、本人の成長や適材適所への人材配置、マンネリ化防止など組織の活性化のために必要なものです。しかしその人事異動が、本人が望まないケースも少なくなく、なかには「人事異動が嫌なので、転職する」という選択をとるということも。

たとえ、本人が望んでいない人事異動であったとしても、直属の上司としてはその辞令を変更することはできません。しかし、伝え方次第で「人事異動の受け止め方」は変わります。

避けられない「人事異動」であるならば、この機会が部下にとってポジティブなものになるように、内示のコミュニケーションのポイントを押えておきましょう。

人事異動にネガティブになる理由は?

今回の人事異動が、本人の希望していた内容であれば、辞令はむしろ「嬉しい知らせ」になります。優秀な人材が異動で職場を去るのは痛手ではありますが、本人のため、組織のためと思えば上司としてあまり躊躇うこともないでしょう。

難しいのは、「本人が望まないだろうな」ということが薄々と感じられるようなケースです。今の仕事から離れ、新しい仕事に就く人事異動に対してネガティブになってしまうのは、大きく分けると2つの状況が考えられます。

➀今の仕事や職場から離れたくない

・今の仕事が好きでやりがいを感じている。あるいは案件やプロジェクトの途中で、この仕事をやり遂げたいと思っている。
・今の職場の人間関係がとても良好で離れたくないと思っている。

②新たな仕事・職場に不安がある

・異動先の新しい仕事がつまらなそう。あるいは、全くの初めての分野で不得意、今までの経験が活かせない。
・残業が多い部署でワークライフバランスが壊れそう。
・人間関係が悪そう(クセのある上司や先輩社員、同僚がいる)。
・オフィスの場所も変わるので、勤務地を変えたくない。
・転勤になってしまうので、家族の同意が得られない。単身赴任をしたくない。

人事異動の内示にネガティブになる理由がどこにあるかで、内示と共に伝えるべき情報も変わります。内示を伝えなければならない部下が、どの状況に当てはまりそうかを考え、どんな「補足情報」を用意すればよいのかをイメージしておきましょう。

「今の仕事や職場から離れたくない」場合のコミュニケーション

人事異動にネガティブな理由に対し、「今のよい状況を変えたくない」という思いがある部下に対しては、異動先にもポジティブなイメージを持ってもらうことが大切です。

そのような人材に人事異動があるケースは、「さらに成長してほしい」「この実績がある人材だからこそ、新しいミッションを任せたい」など、今までの実績に対する評価や、それに基づく期待があると思いますので、それをきちんと伝えましょう。人事部からその理由が伝えられないケースも多々あると思いますが、その場合は直属の上司から「この異動には、きっとこういう意味があると思う」というエールがあると、気持ちを切り替える糧になります。

部下が新しい仕事に対して持っている不安や、今の仕事に対する思いを丁寧に確認しながら、新しい仕事を通じてどんな経験を得てどんな成長ができるか、その先にどんなキャリアプランが広がるのかを伝えていきましょう。

「新しい仕事や職場に移りたくない」場合のコミュニケーション

新しい仕事や職場、あるいは勤務場所が変わることに対してネガティブなイメージや情報を持っている、あるいは何らかの事情があって「新しい仕事や職場に移りたくない」という部下に対しては、その思いが少しでも変わるきっかけになるように、部下が気になっていることを補足できるような情報が必要です。

仕事内容に関するものであるならば、その部署で期待されている役割や、その部署の課題、やりがいなどをわかる範囲ででも伝える。
転勤をしたくないならば、転勤に関する会社の支援制度、現在の勤務地に戻ってくる可能性に加え、転勤先で期待されている役割などを伝える。

補足情報があったからといって、すぐに前向きになれるわけではないでしょうが、何もないのとあるのとでは違います。

ただ、こうした補足情報提供は、部下が気になっていることに対して行って初めて効果を発揮するものです。部下がどんな思いで何を大切にして働いているのか、育児や介護が必要な家族はいるのかなどを理解するためにも、日頃から部下とコミュニケーションをとっておくか、もしくは内示を伝える場で部下の話にも耳を傾け、部下の思いや考えをしっかり受け止めるようにしましょう

「異動したくない」という部下の話をどんなにしっかり聞いたところで、人事異動の辞令の内容を変えることはできないでしょうが、話をしっかり聴き、部下の懸念にできる限りのフォローをすることで、辞令の受け止め方を変えることはできます。

また、人事異動に対してネガティブになってしまう理由には、「異動先の部署の人間関係が悪い」「残業時間が多い」など、残念ながらそれが事実であり、フォローのしようもないようなケースもあるかもしれません。

ただ、組織としてそれを改善するために人事異動が行われるケースもあります。その場合には、そうした役割への期待や、「何かあったらいつでも相談して」など応援する気持ちを伝えることで、たとえそれが気休めのようだったとしても、いくらか気持ちが楽になることもあるでしょう。

人事異動は、部下にとっては人生の1つの転機です。単なる「業務命令」ではなく、「人生の転機」だからこそ、その内示を伝えるときに最も大切なコミュニケーションのポイントは、上司としてこの転機が部下にとって少しでもよい機会になるようにと応援する気持ちです。

その「気持ち」がなければ、フォローするような情報を用意し、巧みなコミュニケーションスキルで伝えたとしても、望まない人事異動の内示に対して部下の気持ちが前向きに動くことはないでしょう。
反対に、その「気持ち」さえあれば、多少情報が足りなくても、でも上司も応援してくれているし」と思えるきっかけになります

直属の上司として、この人事異動が部下の成長になるようにという思いを持って、内示に臨みましょう。

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この記事の監修者:長井 亮

1999年青山学院大学経済学部卒業。株式会社リクルートエイブリック(現リクルート)に入社。 連続MVP受賞などトップセールスとして活躍後、2009年に人材採用支援会社、株式会社アールナインを設立。 これまでに2,000社を超える経営者・採用担当者の相談や、5,000人を超える就職・転職の相談実績を持つ。