採用基準の決め方完全ガイド|失敗しない6ステップと運用の注意点

公開日: 2025年06月19日


採用基準の決め方完全ガイド|失敗しない6ステップと運用の注意点

採用活動において 「採用基準」 を明確に定めることは、企業規模や業種を問わず非常に重要です。どのような人材を採用すべきかが曖昧なままだと、ミスマッチによる早期離職や業務効率の悪化を招く可能性があります。

実際、新卒採用後に 82.5%の企業が「採用のミスマッチ」を経験しており、その結果として57.9%のケースで採用者が早期退職したというデータも報告されています。

参考:マンパワーグループ 新卒採用におけるミスマッチは8割超!ミスマッチによる悪影響の1位は採用した社員の早期退職

本記事では、採用基準の目的と効果から具体的な設定手順、運用上の注意点、見直しのタイミングまで、初心者〜中級の人事担当者向けに幅広く解説します。明確な採用基準を設定・運用することで、企業にフィットする優秀な人材を効率的かつ公正に見極められるようになるでしょう。

採用基準とは?目的と期待できる効果

採用基準とは、企業が求職者を評価して適切な人材を選抜するために設ける評価指標のことです。

企業の成長には優秀な人材の確保が欠かせず、そのために明確な採用基準が必要となります。採用基準を設定・明文化することで、企業理念や文化に合った人材を確保しやすくなり、入社後のミスマッチを防ぐ効果が期待できます。

また、全ての候補者を同じ物差しで評価できるため選考の公平性・透明性が担保され、求職者から見ても安心感や企業への信頼向上につながります。 

採用基準を明確化することには、具体的に次のようなメリットがあります。

  • 評価の偏り防止と公正性の向上: 基準が明確であれば、複数面接官がいても評価ポイントが統一され、主観的なバラつきを防げます。一次・二次・最終など担当者の異なる面接でも一貫した判断が可能となり、候補者全員に公正な選考を行えます。
  • 求める人材像の統一: 採用には人事担当者、現場部署の責任者、経営層など様々な立場の関係者が関わりますが、採用基準を共有しておくことで「どんな人材がほしいか」というイメージを組織内で統一できます。現場と経営層の認識ズレによるミスマッチ採用を防ぎ、採用後の活躍度合いを高めることにつながります。
  • 早期離職やミスマッチの防止: 明確な選考基準によって、必要以上にスキルが不足していたり過剰に高すぎたりする人材を採用してしまうリスクが減ります。その結果、業務とのミスマッチによる早期離職を防止できる効果があります。
  • 採用活動の効率化: 選考基準があいまいだと、面接官同士で合否判断のすり合わせに時間がかかることがあります。一方で基準が明確で評価ポイントが共有されていれば、合否の判断基準が明瞭なため迅速に結論を出せます。結果として無駄のない選考プロセスを実現し、採用活動全体の効率を高めることができます。

以上のように、採用基準を整備することは「適材の見極め」「公正な選考」「ミスマッチ防止」「効率化」という多方面の効果をもたらします。

では、具体的にどのように採用基準を決めていけば良いのでしょうか。次章では採用基準を決めるまでの6ステップを解説します。

採用基準の決め方

採用基準を設定する際は、経営方針から現場の声までをバランス良く反映し、具体的な評価項目に落とし込むことがポイントです。

ここでは、採用基準設定の手順を5つのステップに分けて紹介します。

ステップ1:経営戦略・採用目的を明確化

まず最初に、自社の経営戦略や採用の目的を明確にすることから始めます。

自社の掲げる中長期ビジョンや事業計画の達成に必要な人材像を洗い出し、「会社としてどんな戦力が欲しいのか」を定義します。

採用の目的(例:新規事業の立ち上げ、人員不足の補充、若手人材の確保など)によって求める人物像は変わるため、経営層の意図を踏まえたうえで基準の大枠を設定します。 

例えば、事業拡大フェーズの企業では「変化への柔軟性」や「将来リーダーになり得る資質」を重視するケースが多くあります。逆に安定期の企業であれば「継続力」や「専門性の深さ」などが求められるかもしれません。

このように事業フェーズや戦略に即した採用要件を定めることで、将来を見据えた一貫性ある人材採用が可能となります。経営戦略と採用基準を紐づけることが、ブレない基準設定の出発点となります。

ステップ2:現場ヒアリングで業務と要件を整理

次に、採用予定部署の現場から徹底的にヒアリングを行い、業務内容と必要要件を洗い出します。

実際にそのポジションで求められるスキルや能力は現場の担当者が最も熟知しています。一方で経営者側が考える理想像とはズレがある場合も多いため、人事・現場・経営陣の三者で求める人材像のすり合わせを行うことが重要です。

ヒアリングの際は、「コミュニケーション能力がある人」など抽象的な表現で終わらせず、人物像・必須スキル・経験年数や資格・志向性といった項目をできるだけ具体的に定義するのがポイントです。

例えば「コミュニケーション能力」が必要と言っても、社内調整が得意なタイプなのか、顧客対応での傾聴力なのかで求める人物像は異なります。ただ漠然と「コミュニケーション能力が高い人」とするのではなく、「部門横断プロジェクトを推進できる調整力・発信力を持った人」など、現場のニーズを反映した具体像に落とし込みましょう。 

また、現場ヒアリングでは現在組織が直面している課題も重要な手がかりです。

例えば「マネジメント層の人材不足」や「若手の定着率低下」といった課題がある場合、それを解決するヒントが採用段階の見極め軸に隠れています。

現場の課題と、あるべき人材像のギャップを分析し、「今回の採用で補いたい要素は何か」を明確にしましょう。

現場責任者へのヒアリングとあわせて、現在活躍している社員の行動特性(コンピテンシー)を分析することで、実態に即した人物要件を導き出すことができます。

活躍している社員に共通する思考・行動パターンを言語化すれば、「活躍人材の共通項」を基にした、より実効性のある採用基準を設計できます。

ステップ3:評価項目の設定

ステップ1・2で洗い出した要件を基に、評価項目(選考基準となる具体的な観点)をリストアップします。

評価項目は大きく定量要素(例:実績、スキルレベル、資格、経験年数など)と 定性要素(例:価値観や仕事に対する姿勢、行動特性、ポテンシャルなど)に分けて検討すると漏れがありません。

即戦力採用であれば業績やスキルといった定量面が重視されますが、企業文化との適合性や成長意欲 といった定性面を無視すると、「スキルは高いが社風に合わず早期離職してしまう」というリスクがあります。そのため知識・スキル面だけでなく、人柄や行動特性面も含めて、自社独自の評価項目セットを作成することが大切です。

一般的には「人格的要素(価値観・動機)」「行動特性(コンピテンシー)」「知識・スキル」の3つが採用基準の三要素とされています。自社の採用目的に照らし、この3要素をバランス良く網羅する評価項目群を設計しましょう。

ステップ4:評価項目の優先順位付け

評価項目が出揃ったら、各項目に優先順位を付け、必須度合いを明確に定めます。

すべての条件を完璧に満たす候補者はなかなか存在しないため、「絶対に欠かせない条件」、「できれば満たしていてほしい条件」、「無くてもよい条件(極端な場合は不採用となる要因)」に分ける作業が必要です。

具体的には次の3つに分類します。

  • 必須条件: その職務を遂行する上で絶対に必要な要件。これを欠く人材は採用できない最低ラインの基準です(例:営業職における普通自動車免許、専門資格、夜勤シフト対応可能なことなど)。
  • 加点条件(希望条件): 持っていれば望ましいが、入社後の研修や経験で習得可能な要素。合否の決定打にはしないが、評価の際プラスに働くポイントです(例:英語力が高い、同業界でのインターン経験があるなど)。
  • 不要条件(不採用条件): 無くても構わない、もしくはあると逆に支障をきたす要素。いわゆる不採用に直結する要因もここに該当します(例:明らかな価値観の不一致、勤怠面の重大な懸念など)。

この分類を社内に共有することで、合否判断の軸が一層クリアになります。

評価項目ごとの優先度を可視化しておけば、選考過程で迷った際にも「どの項目を重視すべきか」がブレにくくなるでしょう。

例えば、必須条件を満たさない候補者はどれほど他の項目が優秀でも見送る、一方で加点条件が弱いが必須は満たしている候補者は将来性を考慮して採用を検討する、というように判断基準が明確になります。

ステップ5:選考プロセスへの落とし込み

続いて、設定した採用基準を具体的な選考プロセスに組み込みます。

どんなに明確な基準を作っても、現場の面接や書類選考で活用できなければ効果を発揮しません。ステップ3で定めた評価項目ごとに、「どの選考フェーズで・どのように評価するか」を設計しましょう。 

まず書類選考では、職務経歴書・履歴書の情報から定量要件を満たしているかを確認します(例:「○○資格保有」「関連職種で〇年以上の経験」などの必須条件をチェック)。

定性的な部分(価値観や志向性)はエントリーシートの自己PRや志望動機を通じてある程度確認します。

例えば、「学生時代に力を入れたこと」などの設問回答からチャレンジ精神や失敗から学ぶ姿勢を読み取り、自社の求める人物像との合致度を見るといった具合です。性格検査や能力検査を併用することで、エントリーシート上では掴みきれない候補者の行動特性も、客観的データで補完できます。

次に面接プロセスでは、各評価項目に沿った質問や試験を準備し、基準に基づいて候補者を評価します。面接官任せにするのではなく、予め「この資質を測るにはどんな質問をするか」「どのような回答なら高評価か」を想定して面接項目を構成しましょう。

面接評価シートを用意し、各評価項目ごとに得点や所見を書き込めるようにしておくと便利です。評価シートには項目ごとの評価基準を明示し、全面接官に共有しておきます。これにより候補者に対する評価の物差しが統一され、誰が面接しても大きくブレない客観的な判断が可能になります。

事前に評価基準が共有されていれば、面接官ごとに着目点がズレて「Aさんは高評価だけどBさんは低評価」という事態を減らせるはずです。 

さらに、評価の難しい抽象的な資質は具体的な指標に落とし込む工夫をします。

例えば「リーダーシップ」が評価項目なら、「チームで目標を達成した経験はあるか」「周囲を巻き込む行動を取れたか」といった具体的エピソードを質問し、その受け答えに基づいて評価するようにします。抽象的な価値観や性格面も、具体的な行動例や状況設定を用いて質問することで客観的に判断しやすくなります。

「自社の文化に合うか」を見る場合でも、「当社の理念に共感した点は何か」など問いかけ、候補者の価値観や思考を具体的に引き出して評価するようにしましょう。

こうした選考設計の工夫によって、採用基準と選考方法を連動させ、設定した採用基準を現実の面接・選考で活きる形にします。

ステップ6:社内共有と運用整備

最後のステップは、設定した採用基準を社内で共有し、継続的に運用できる体制を整えることです。

採用基準は人事部だけが知っていても不十分で、実際に評価を行う面接官や現場の責任者まで含めて社内の共通認識とする必要があります。決定した選考基準や評価シート、面接での質問リストなどは関係者全員に展開し、面接前の打ち合わせや面接官トレーニングを通じて解釈の統一を図りましょう。

例えば、「主体性」という評価項目一つとっても、人によって判断基準が異なる可能性があります。事前に「主体性=困難な状況で自ら打開策を提案・実行した経験があること」など、評価ポイントと言葉の定義を擦り合わせておくことで、面接官による判断基準のズレを減らせます。 

また、採用基準は一度設定して終わりではなく、運用しながら磨いていくものです。面接を実施する中で「基準が抽象的すぎて評価に迷う」と感じた項目や、「この項目は不要ではないか」と思う点が出てくるかもしれません。その場合は速やかに現場の声をフィードバックし、基準をアップデートしていきます。定期的に人事と現場で面接評価の振り返りミーティングを行い、「評価項目や基準に改善の余地はないか」「選考プロセスで問題はなかったか」を検証しましょう。

例えば、面接評価を数値化して記録しておけば、後から各候補者の評価データを分析できます。「〇〇の項目で高得点だった人が入社後活躍している」といった傾向が見られれば、その項目をより重視する、逆に無関連な項目があれば削除するといった見直しが可能です。このようにPDCAサイクルを回しながら採用基準と運用方法を改善していくことで、より精度の高い採用活動を継続的に実現できます。

なお、社内共有の一環として法令やガイドラインの遵守も改めて確認しておきましょう。採用基準を定める際には、厚生労働省の提示する「公正な採用選考の基本」を踏まえ、応募者の適性・能力以外の事項(例:性別、出生地、家庭環境など)を評価項目に含めないことが鉄則です。万一そのような不適切な基準が含まれていれば早急に除外し、全面接官に遵守させるよう運用ルールを整備してください。

運用の注意点

採用基準を設定し運用する際に気をつけておきたいポイントを紹介します。せっかく決めた基準も、極端な設定や使い方を誤ると効果を発揮しません。以下の注意点を押さえて、誰が担当してもぶれなく公正に運用できる仕組みを目指しましょう。

曖昧すぎる/厳しすぎる基準の設定に注意

採用基準の内容は具体的かつ適切な厳しさに設定する必要があります。 

基準が漠然としすぎると、関係者間で解釈が食い違い選考のたびにすり合わせに時間を要する上、条件に合っていない候補者が通過してしまったり、逆に有望な人材を見落としたりする恐れがあります。基準はできるだけ明確な言葉で定義し、判断に迷う余地を減らしましょう。 

一方で、基準が厳しすぎたり項目が多すぎたりすることにも注意が必要です。要求水準を上げすぎると応募者自体が集まらなくなったり、書類選考の通過率が極端に低下したりします。

例えば「必須条件」を増やしすぎると、それを一つでも欠けた人はすべて落とされるため、結果的に候補者ゼロという事態にもなりかねません。もし「応募者が著しく少ない」「書類でほとんど落ちてしまう」という場合は、基準が非現実的ではないか、要求に対して提示している報酬や魅力が釣り合っているかを見直してみてください。

逆に「誰でも通過してしまう」ほど基準が低すぎる場合も要注意です。その場合は評価項目に漏れがないか、重要な要件のハードルが低すぎないかをチェックし、必要に応じて修正しましょう。

面接官間のブレ防止と基準の共有運用

複数の面接官がいる場合、評価基準の共有徹底によって主観的なブレを防ぐことが重要です。

人によって評価が割れがちな採用面接ですが、初めから統一の評価基準を設けて全員に共有しておけば、候補者をより客観的・正確に見極めることができます。

具体的な対策としては、前述の面接評価シートを活用し、各面接官が共通のフォーマット・基準で候補者を採点する仕組みを整えることが挙げられます。「求める人物像」のイメージも言語化して共有し、「どんな回答なら高評価か」「重視するエピソードは何か」といった判断基準についてもできる限り事前に合意しておきましょう。

例えば「チャレンジ精神」を評価する際に、ある面接官は「失敗経験から学んだ話があるか」で見ているが、別の面接官は「資格取得など自己研鑽の有無」で見ている、という状態では評価にブレが生じます。そうしたズレを小さくするために、評価シートを使って主観による評価を防ぎ、見極め基準を全面接官で共有することが有効です。面接直前の打ち合わせや面接官トレーニングも活用し、誰が評価しても同じ結論になるくらいまで認識合わせを図るのが理想です。

法的リスクへの配慮(差別禁止など)

採用基準を設定・運用する際は、法令遵守と公正さの観点を常に念頭に置きましょう。 日本では厚生労働省から「公正な採用選考の基本」が示されており、応募者の適性・能力に関係のない事項で差別的な取扱いをすることは厳に禁止されています。

例えば、性別、年齢(※一般的に新卒一括採用を除く)、出身地や本籍、家族構成や婚姻状況、宗教・門地などは、能力と無関係な事項として面接で質問したり選考基準に含めたりしてはなりません。

参考:厚生労働省 公正な採用選考の基本

これらは明確な違法行為・リスクとなるだけでなく、企業イメージの失墜にもつながる点に注意が必要です。 採用基準を設定する際には、こうした差別的要素が入り込んでいないかをチェックするとともに、公正な選考ルールを社内で教育・周知することが求められます。

特に面接官が複数いる場合、それぞれが無意識に不適切な質問をしてしまわないよう、「聞いてはいけない事項リスト」を共有するなどの措置を取りましょう。

例えば「本籍・出生地は業務と関係ないので質問不可」「家族の職業や収入に言及しない」など、具体的にガイドライン化しておくと安心です。万一候補者から差別的な選考を指摘されると法的トラブルに発展しかねません。

評価基準はあくまで仕事内容や活躍要件に直結する事項に限定し、公平公正で説明可能なものにすることが大前提です。

評価結果に沿った定期的フィードバックと見直し

採用基準は運用後のフィードバックを基に、定期的に見直す仕組みを作りましょう。 

一度決めた基準でも、採用活動を継続する中で「基準が適切に機能しているか」「想定外のミスマッチは発生していないか」を検証し、必要に応じて修正していくことが重要です。そのためには評価結果のデータを蓄積・共有し、分析するプロセスを取り入れます。

例えば、各候補者の書類選考評価や面接スコア、採否理由を記録・集計しておけば、「特定の評価項目のスコアが低い人は入社後○ヶ月で離職しがち」などの傾向を掴むことができます。そうした分析から「この評価項目は基準から外そう」「こちらの要素を新たに加えよう」といった改善策が見えてくるでしょう。

また、現場からのフィードバックも定期的に収集します。採用後に配属先の上司から「期待していたスキルセットと少しズレがあった」などの声が上がれば、次回採用時の基準に反映させます。逆に「○○の素質を重視して採用した人が非常に活躍している」という成功事例が得られれば、その要素を今後も重視するよう基準を補強します。

面接官同士での振り返り会も効果的です。お互いの評価が分かれたケースについて「なぜ判断が割れたのか」を話し合えば、基準の解釈違いがあれば修正できますし、評価プロセス自体の課題にも気づけます。

重要なのは「放置せずアップデートを繰り返す」ことです。採用基準は人材市場や自社の状況変化に合わせて進化させていくものと捉え、常にベストな状態にチューニングしていきましょう。

見直しすべきタイミングと指標

では具体的に、どのようなタイミングや指標で採用基準の見直しを検討すべきでしょうか。以下に、基準の再考が必要となる主なケースとその判断材料を示します。

ミスマッチ・早期離職が増えたとき

入社後のミスマッチや早期離職が目立って増えた場合、採用基準の見直しサインと考えられます。

例えば、「採用したものの短期間で退職する新人が続いた」「配属先から“人選ミスでは?”という声が上がった」という場合です。

原因としては、選考基準と実際の仕事内容・職場文化に乖離がある、あるいは面接で候補者のパーソナリティを十分把握できていない、といった点が考えられます。

例えば、求職者が基準以上にオーバースペックだったり逆にスキル不足だったりすると、入社後の業務にストレスを感じやすくなり定着しにくくなります。また「上下関係を超えて自由に意見を言えるコミュニケーション能力」という要素を求めているのに、面接では単に受け答えの明るさだけで評価してしまうと、肝心のパーソナリティの適合を見誤るケースもあります。

そうしたミスマッチが重なれば当然早期離職率は上昇します。 実際、新卒入社者の3年以内離職率は大卒で32.3%、高卒で37.0%にのぼるという厚労省のデータもあります。

参考:厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します

すべてが採用ミスマッチに起因するわけではありませんが、「自社の離職率が明らかに悪化してきた」という場合は採用段階から見直すことで改善できる可能性があります。

現場の受け入れ担当者や退職者へのヒアリングを行い、「どの要素が合わなかったのか」「選考で見抜けなかった点は何か」を洗い出しましょう。その結果、採用基準に不足していた観点(カルチャーフィットを見る項目が弱かったなど)や不要だった基準(重視しすぎて候補者層を狭めていた条件など)が見えてくるはずです。それらを踏まえて採用基準を調整することが、早期離職率改善の一助となります。

面接通過率や内定辞退率の異常

選考プロセス上の指標に異常値が見られた場合も要注意です。

代表的なのが「面接通過率」と「内定辞退率」です。

まず面接通過率について、就職みらい研究所が発表した2024年卒採用における面接通過率の平均は33.11%となっています。

参考:就職みらい研究所 『就職白書2024』データ集

もちろん企業や採用人数によって幅がありますが、もし自社の選考で 面接通過率が極端に低い(例えば10%を切るなど) 場合、選考基準のハードルが高すぎる可能性があります。必須条件を緩和できないか検討したり、現場と経営層で「本当に必要な人物像」のすり合わせを改めて行ったりしましょう。

逆に面接通過者が多すぎる場合も見直しのサインです。面接を通過する人が想定以上に多い場合、「採用基準に漏れがないか」「基準の水準が低すぎないか」を確認してください。必要な要件を設定し忘れていたり、評価基準が機能していない可能性があります。

いずれにせよ、面接通過率の極端な低迷・高騰は選考基準や運用プロセスの歪みを示すシグナルです。定めた基準とその運用方法が適切かどうか、データをもとに検証・調整しましょう。 

次に内定辞退率です。せっかく最終候補まで進んでも、内定を辞退されては採用計画に影響します。2024年卒採用における内定辞退率の平均は47.34%となっており、この数字は業界や企業規模によっても異なりますが、もし内定辞退率が50%を超えているようなら注意が必要です。

選考プロセスが長引いたり対応が悪かったため他社に流れてしまうケースもありますが、選考中のコミュニケーション不足やミスマッチが原因の可能性も考えられます。この場合、採用基準の伝え方・見極め方に改善の余地があります。

内定辞退率が高いときは、候補者から辞退理由をフィードバックしてもらいましょう。そこで「他社の方が魅力的だった」「社風が合わないと感じた」「選考を通じて不安が拭えなかった」などの声があれば、自社の採用基準や選考プロセスを見直すヒントになります。

例えば自社の魅力を十分伝えられていなかったなら会社説明段階を強化する、基準を見直し社風へのマッチングをもっと初期に確認する、といった対策が考えられます。

極端に辞退が多い場合は採用基準そのものより選考フロー側の課題であることも多いですが、いずれにせよ指標が悪化した際には基準・プロセスの両面から点検を行い、歩留まりの改善策を講じることが大切です。

事業フェーズ変化によるポジション更新タイミング

企業を取り巻く状況は日々変化します。自社の事業フェーズや戦略に大きな変化があったとき、あるいは組織改編や新規事業立ち上げでポジションの内容が更新されたタイミングでも、採用基準の見直しが必要です。

前述したように、成長フェーズによって求められる人材要件は変わります。

例えば、創業間もないスタートアップが社員数50名を超えて スケール期に入った場合、これまでは「何でもこなすゼネラリスト的な人材」を重宝していたのが、今後は「専門領域に強みを持ちチームを牽引できる人材」が必要になるかもしれません。逆に急成長中だった企業が一段落して安定成長期に入れば、「突飛な発想力」よりも「着実にPDCAを回せる実行力」を重視する方向に変わる可能性があります。

このように、企業のステージ変化に伴い“あるべき人材像”も変化するため、その都度採用基準をアップデートすることが求められます。経営戦略を見直した際には、それに即して採用基準も見直す、という流れをセットで行うと良いでしょう。

具体的には、新規事業用の採用ならその領域特有のスキル要件を追加する、DX推進に舵を切るならデジタルリテラシーや変革マインドを評価項目に加える、といった具合です。

また、ポジションの仕事内容が大きく変わった場合も基準の再考ポイントです。例えば営業職でも、これまで「新規開拓」が主だったのが、組織戦略変更で「既存顧客深耕」に比重が移ったのであれば、採用基準も「新規開拓力重視」から「関係構築力重視」へシフトする必要があるでしょう。

ポジションごとの職務記述書を更新した際には、それに対応する 能力要件も見直し、採用基準へ反映させることを忘れないでください。

このように、企業内外の変化を捉えて採用基準を機動的にアップデートしていくことが、常に最適な人材確保につながります。「昔決めた基準だから」と漫然と使い続けるのではなく、節目節目で「今後の我が社に本当に必要な人材は?」と問い直す姿勢が重要です。

まとめ

採用基準は、人材採用の精度を高めるために重要な指針です。

経営戦略との整合性を持たせ、現場の声や活躍人材の特徴を基に設計・運用することで、ミスマッチのない公平な採用が可能になり、着率向上や組織力強化といった成果にもつながります。

また採用基準は一度作って終わりではなく、選考や定着状況を踏まえて定期的に見直すことが重要です。

ぜひ本記事の内容を参考に、自社に合った採用基準を設定し、企業にフィットする優秀な人材を効率的かつ公正に見極めましょう。

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この記事の監修者:長井 亮

1999年青山学院大学経済学部卒業。株式会社リクルートエイブリック(現リクルート)に入社。 連続MVP受賞などトップセールスとして活躍後、2009年に人材採用支援会社、株式会社アールナインを設立。 これまでに2,000社を超える経営者・採用担当者の相談や、5,000人を超える就職・転職の相談実績を持つ。