【実践例つき】採用におけるアトラクト(魅力づけ)のやり方とは?カギは候補者の「インサイト」

公開日: 2025年06月02日


【実践例つき】採用におけるアトラクト(魅力づけ)のやり方とは?カギは候補者の「インサイト」

「最終面接までは順調だったのに、内定辞退された」 「“この人いいな”と思った候補者ほど、他社に取られてしまう」

そんな経験、ありませんか?

採用市場はいま、完全に売り手優位。企業が候補者を選ぶのではなく、候補者が企業を選ぶ時代。特に中小企業は、大手企業のように知名度や条件面では勝てないため、より一層厳しい環境にあります。

だからこそ、「選ばれる採用」を実現するには、候補者の心を動かすアトラクト(魅力づけ)の設計に力を入れる必要があります。

候補者が企業を選ぶ最終判断の場面では、「条件」よりも「納得感」「信頼感」「ここで働くイメージが湧くかどうか」といった情緒的な要素が重要になります。

ここが弱いと、以下のような理由で辞退が発生します。

  • 「最終的に他社の方がイメージが湧いた」
  • 「不安が払拭されなかった」
  • 「ここに決める決め手が見つからなかった」

これはまさに、アトラクト不足=候補者の「決断の背中を押せなかった」状態です。

本記事では、採用におけるアトラクトをどう強化していくか、その具体的なポイントを事例を交えて丁寧に解説していきます。

採用におけるアトラクト(魅力づけ)とは?

「アトラクト」と聞くと、何か特別な言い回しや、心をつかむスカウト文、ドラマチックな面接トークを想像するかもしれません。

でも本質は、そこではありません。

採用におけるアトラクトとは、候補者のキャリア観や価値観に対して“自社の魅力”を意図的に刺しにいく設計プロセスです。 つまり、アトラクトはテクニックではなく“仕組み”です。

言い換えれば、企業側の「伝えたいこと」を一方的に押しつけるのではなく、候補者が「聞きたいこと」「知りたいこと」を理解し、それに対して“うちならこう応えられる”という構造を作ることこそがアトラクトなのです。

魅力はあるのに伝わっていない現実

よくあるのが、以下のような“伝わらない設計ミス”です:

  • 「成長できる環境」と言いながら、具体的に何をどう経験でき、どのようなキャリアを積んでいけるのかが不明瞭
  • 実際に働いている社員の声や様子、事例が選考中に見えない。
  • ある面接官は裁量を推し、別の面接官は安定性を推すなど、面接官ごとに訴求ポイントがバラバラで、一貫性がない
  • 面接では見極めばかりに意識がいき、逆質問されるまで魅力を伝えない
  • 候補者に合わせず一方的に魅力を伝えようとしてしまう

このように、「きちんと言語化できていない」「候補者視点で分かりやすく伝えられていない」「設計されていない」ことが、結果として“魅力が伝わらない”状況を生み出しています。

伝わっていない魅力は、存在していないのと同じ
候補者はあなたの会社を詳しく知りません。だからこそ、内定出しよりも前に、選考全体を通して“魅力を伝える仕組み”を設計しない限り、見過ごされてしまうのです。

魅力の伝え方は、候補者の「インサイト」から考える

「企業視点で語る魅力」ではなく、「候補者が聞いたときに“自分ごと化できる魅力”」が必要になります。

この時に鍵になるのが、キャリアインサイトです。

キャリアインサイトとは、候補者が職場や仕事に求めている“根本的な価値観”のこと。たとえば:

  • 「日々の努力や過程を、定量だけでなく定性でも評価してほしい」
  • 「自分の意見や提案を、否定せずに一度は受け止めてくれる環境で働きたい」
  • 「若手でも裁量を持って、自分の頭で考えながら動ける仕事がしたい」
  • 「“あの人がいてよかった”と言われたい。自分の存在意義を感じられる仕事をしたい」
  • 「一つの作業ではなく、プロジェクトの全体像や上流から関われる環境に身を置きたい」
  • 「自分の得意・向いていることを、試行錯誤の中で見つけていける職場が理想」

これらは、求人票や経歴からは読み取れない、“内側の欲求”です。そしてその欲求は、候補者一人ひとり異なります。

だからこそ、自社がどんな環境・体制・文化を提供できるのかを見つめ直し、それを丁寧に設計し、候補者の言葉に翻訳して伝えることが重要です。

今日からできる「採用アトラクト設計」3ステップ

ここからは、「何からやればいいか分からない」を解消するための再現性ある設計手順を、テンプレと事例付きで解説します。

Step1:候補者の“インサイト”を見抜く

例えば中途採用において、候補者が転職を考える背景には、現職に対する具体的な不満があります。


「提案の幅が狭い」

「裁量がない」

「評価が曖昧」

「会社のビジョンに共感できない」

しかし、こうした不満の奥には、候補者自身も明確に言語化できていない“本音の価値観”=キャリアインサイトが潜んでいます。

【具体例】候補者のキャリアインサイト


「提案の幅が狭い」
→ 社内の事情やルールに縛られ、「本当に良いと思う提案ができない」ことにジレンマを感じている。困っているお客様を助けたいのに、自分の提案が通らないもどかしさ。「顧客にとって本当に意味のある提案をして、感謝される実感がほしい」

「裁量がない」
→ いちいち上司の承認を待たないと進められない状況に、スピード感のなさを感じている。意思決定を任せてもらい、自分の判断で物事を動かしたい。「自分の決断やアイデアが、誰かの行動や成果につながる実感が原動力になる」

「評価が曖昧」
→ 「誰が何を評価されたのか」が見えづらく、正しく見てもらえていない感覚が積み重なっている。上司の主観や年功序列でなく、成果や努力をきちんと見て、フィードバックしてくれる環境で働きたい。「頑張りを“事実ベースで見てもらえる安心感”がほしい」

これは新卒採用でも同様です。学生時代の部活選びやバイト、サークルでの行動には、その人なりの価値観がにじみ出ています。
この“本音の部分”を拾い上げることこそが、アトラクト設計の出発点です。

Point:インサイトの深掘りは「具体的な体験」から抽象化する

では、どうすればインサイトにたどり着けるのか。

ポイントは、“感情が動いた具体的な体験”を起点に、「なぜそう感じたのか?」を掘り下げていくことです。

たとえば、カジュアル面談や面接では、こんな問いかけが効果的です:

  • 「現職でモヤモヤしていることって、どんなところですか?」
  • 「これまでで一番夢中になれた仕事や経験は何でしたか?」
  • 「仕事をしていて、一番嬉しかった瞬間は?」
  • 「周囲との関係で違和感を覚えたことってありますか?」

まずは、こうした「感情にひもづいた出来事」を具体的に聞き出します。
そして、その出来事に対して「なぜそう感じたのか?」を掘り下げていきましょう。これが縦に深掘る(垂直)ステップです。

その上で、「他にも似た経験はありますか?」と問いを横に広げる(水平)ことで、複数の体験に共通する価値観やこだわりが見えてきます。

こうして候補者のインサイトをつかむことで、
「どんな職場や関わり方を望んでいるのか」
「逆に、どんな環境ではモチベーションが下がるのか」
といった重要なヒントが得られるのです。

Step2:「自社の魅力」と交差する訴求軸を設計

候補者のキャリアインサイト(=本音の願望)が見えたら、次に必要なのは、それに自社ならではの魅力で応えるメッセージを設計することです。

ただし、候補者の願望に共感したり、それらしい言葉を並べるだけでは不十分です。
「主体的に働けます」「スピード感があります」――どの会社も似たようなことを言っているなかで、それだけでは選ばれる理由にはなりません。

だからこそ重要なのは、「だからこそ、うち」と言える具体性と差別性です。

つまり、候補者のインサイトに対して「自社であれば、どんな経験や価値提供ができるのか?」を、自社の事実や特徴と交差させて言語化する必要があります。

【具体例】インサイトに対する訴求内容

「提案の幅を広げたい」

→採用支援の領域が広く、母集団形成・選考・定着支援・面接官トレーニングまで、クライアントの状況に応じた多様な支援を提案できる環境です。
決まった商材を売るのではなく、顧客の課題に本質的に向き合いながら最適な打ち手を考えるスタイルなので、提案の自由度が高く、介在価値を感じやすいのが特徴です。

「主体的に働き、成長したい」

→若手の挑戦を後押しする体制が整っており、年齢や社歴に関係なく抜擢される風土があります。
たとえば、配属2年目でマネージャーに昇格した社員もおり、「やる気のある・できる人に任せる」文化が根付いています。

「自分の力を正しく評価してほしい」

→定量的な成果だけでなく、プロセスや周囲への貢献も含めて評価する仕組みがあり、納得感のある評価が行われています。
評価基準は明確に可視化されており、「なぜそう評価されたのか」というフィードバックも丁寧に伝えられます。結果として、努力が報われる実感を持ちやすい環境です。

ポイントは、単に「提案の幅が広いです」「成長できます」と言い切るのではなく、「自社だからこそ実現できる理由」を、具体的な事実で裏付けることです。

「なぜそれができるのか?」「なぜ他社ではなく、うちなのか?」を伝えるためには、制度・文化・実績・チームの雰囲気といった、自社ならではの情報が必要です。

【裏付けとなる具体例】

  • 「提案の幅を広げられる」
     例:スカウト業務を依頼された案件で、選考プロセス全体の設計見直しを提案。結果として通過率が大幅に改善した事例あり。商材ありきではなく、課題起点で動く文化がある。
  • 「主体的に働き、成長できる」
     例:配属1年目から複数クライアントを担当。2年目でマネージャーに昇格した社員や、業務改善プロジェクトを全社展開に導いた社員も存在。

Point:競合に対するポジショニングを明確にしながら伝える

候補者は、似たような魅力を掲げる複数の企業を比較検討しています。
その中で選ばれるには、「よくある〇〇じゃなく、うちは□□」という明確な違いと理由を提示する必要があります。

以下のように、“採用競合はこう”→“だからこそ、うちはこう”という構造で整理すると、比較の中での魅力が伝わりやすくなります。

例①:育成環境

多くの企業が「OJTで丁寧に教えます」「先輩がしっかりサポートします」と掲げていますが、実際には
「先輩が忙しくて聞きづらい」「聞ける雰囲気がなく、結局放置された」という不安の声も少なくありません。

だからこそ、私たちは“仕組みで育成を担保”しています。
入社後は、「現場OJT担当」+「別部署のメンター」+「上司との1on1」の三層体制を整備。
「誰に何を相談すればいいかわからない」「なんとなく時間だけが過ぎる」といった不安を生みにくい設計です。
自分のペースで着実に成長できる実感を持てるような環境づくりにこだわっています。

例②:裁量

「若手が活躍中」「チャレンジ歓迎」といった言葉は多くの企業で見られますが、
実際には承認フローが煩雑だったり、上司に遠慮して意見が出しにくいケースも少なくありません。

私たちは、“任せる”だけでなく、“信じて任せる”文化があります。
年次に関係なく、顧客案件の主担当として前線に立つ機会があり、提案や企画に対して返ってくるのは「まずやってみよう」。
うまくいかなかった場合でも、「何が原因だったのか、一緒に振り返ろう」という前向きな姿勢が根付いており、安心して挑戦できます。

このように、「他社はこう言っているが、実はこういう懸念がある。だからこそ、うちはこうしている」という構造で伝えると、候補者が“納得して選べる理由”が明確になります。

Step3:訴求軸を「伝える場面」に落とし込む

Step1・2で設計した“キャリアインサイト”と“訴求軸”は、紙の上だけで完結しては意味がありません。候補者との接点で“伝わる言葉”に翻訳し、「ここなら安心して働けそう」と思わせる体験設計が必要です。

ここでは、候補者が企業を見極める4つの主な接点を取り上げ、それぞれで「どう伝えるか」の要点を整理します。

1. 求人票|「見た瞬間」に刺さる構造と文脈を

候補者が企業に最初に触れる「求人票」は、他社との“比較”の中で読まれます。だからこそ、表現の差がそのまま志望度の差になります。

抽象的な言葉(例:「裁量あり」「成長できる環境」)は、どの会社にも書かれているため埋もれがちです。大切なのは、“誰にとって、何が魅力か”が一目で伝わる構造です。

  • 専門用語・横文字を避ける:初めて見る人が“外の目線”で読んでもスッと理解できる言葉を選ぶ
  • 写真・動画で雰囲気を可視化:「文章では語りきれない人柄」はビジュアルに頼るのが効果的

2. カジュアル面談|“内側”を引き出し、リアルを返す

カジュアル面談は、候補者との最初のリアルな接点です。
ここでは企業の魅力を一方的に話すよりも、相手の“内側(価値観・不安・期待)”を引き出すことが第一歩。
そのうえで、「その想い、うちでならこう応えられるかもしれません」と結びつけるのが効果的です。

面談の進め方のポイント:

  • ① 緊張をほぐす
     雑談や共通点から入ることで、“構え”を解き、自然体の対話を引き出す
  • ② インサイトを引き出す
     「最近“楽しい”と感じた仕事は?」「仕事で重視してることってありますか?」など、価値観・判断軸に触れる質問を行う
  • ③ 魅力を“リアル”で返す
     引き出した想い=インサイトに対して、「実はうちにも、同じようなことで悩んでいた人がいて…」といった実在の社員ストーリーで返す。
     単なる制度説明ではなく、「なぜそうしているか」「どんな想いの人が活躍しているか」といった人や背景が伝わると、信頼感に

よくあるNG例:

「うちは裁量があります」「成長できますよ」
→ 抽象的で“自分ごと”にならない

GOOD例:

「うちの○○は前職で、“本来は別のサービスの方が適しているのに、特定のサービスを説得して買っていただく”という営業スタイルに辛さを感じていたそうです。

でも、うちに来てからは『サービスのラインナップが幅広いぶん、課題を丁寧にヒアリングしたうえで、ボトルネックを特定し、それに合った自社サービスを提案できる。だからこそ、お客様に本当の意味で寄り添えるようになって、営業が楽しくなった』と話していました。」

3. 面接|逆質問が“志望度”を決める勝負の場

面接は、企業が候補者を評価する場であると同時に、候補者が「この会社で働きたいかどうか」を見極める場でもあります。
なかでも「逆質問」は、候補者が最も本音で企業を判断しようとする瞬間です。ここでの回答次第で、志望度が大きく変わります。

重要なのは、「エピソードで語ること」。
どれほど良い制度や環境があっても、抽象的な説明では響きません。
「この会社で働く自分」を具体的にイメージできるよう、実在する社員や具体的な出来事を交えて語ることが、信頼と納得につながります。

たとえば、「御社で活躍している社員の特徴は?」という逆質問に対して、候補者のインサイトが“裁量を持って働きたい”だった場合:

  • NG例:
    「うちは裁量を持って働けるので、やる気があって前向きな方が活躍しています。」
    → 抽象的で当たり障りがなく、判断材料にならない。
  • GOOD例:

「たとえば、入社2年目でプロジェクト責任者を任されたAさんがいます。彼は、前例のない取り組みに対して自ら課題を見つけ、他部署のマネージャーを巻き込みながら推進しました。当社は裁量が大きい分、自ら動く力と、それを実行するために周囲を巻き込める力がある人を特に評価しています。」

4. オファー面談|「ここで働く自分」が想像できるか

最終的な意思決定を左右するのは、「年収」や「条件」ではなく、“ここで働く自分”がリアルに想像できるかどうかです。
どれだけ魅力的な条件を提示しても、未来がぼんやりしていては、不安が残り、意思決定は揺らいでしまいます。

だからこそオファー面談では、入社後の未来を“具体的に描ける体験”を設計することが重要です。

体験設計の3つの視点

① 未来を見せる
・入社後の育成スケジュール
・3ヶ月後・半年後に任される業務の具体例
→ 「成長できそう」「役に立てそう」と思える設計がカギになります。

② 人を見せる
・配属予定チームのメンバー紹介
・先輩社員とのカジュアルな座談会
→ 実際に働く人の“雰囲気”が伝わることで、安心感がぐっと増します。

③ リアルを見せる
・1日の働き方シミュレーション
・Slackでのやりとりや社内の雑談文化、ミーティングの空気感
→ 「なんとなく自分に合いそう」と思える“空気感”の伝達が大切です。

最後の決め手は、“条件の良さ”ではなく、「この会社でなら、自分らしくやれそう」という実感です。
競合と比べられる中で、“温度感”を持って伝えられるかが、オファー承諾の分かれ道になります。

まとめ

候補者の心を動かすには、ただ待遇や制度を並べるだけでは不十分です。
大切なのは、「どんな人に」「何が刺さるのか」を見極め、キャリアインサイトに基づいた魅力を設計し、適切なタイミングで、適切な形で伝えること。

本記事では、以下のステップで採用アトラクトの考え方と実践方法を解説しました。

  1. キャリア観を深掘る:ターゲットの価値観や動機を分析し、どんな働き方を求めているのかを理解する
  2. 訴求軸を設計する:他社と比較される前提で、自社ならではの魅力をキャリア軸に沿って打ち出す
  3. 伝え方を工夫する:求人票・カジュアル面談・面接・オファー面談…すべての接点で、具体性とリアリティをもって魅力を伝える

いくら優れた魅力があっても、候補者の視点で伝えなければ“無い”のと同じです。
採用成功のために必要なのは、「魅力を磨くこと」と「伝えきること」の両輪です。

今一度、自社の採用活動における“アトラクト設計”を見直してみませんか?

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この記事の監修者:長井 亮

1999年青山学院大学経済学部卒業。株式会社リクルートエイブリック(現リクルート)に入社。 連続MVP受賞などトップセールスとして活躍後、2009年に人材採用支援会社、株式会社アールナインを設立。 これまでに2,000社を超える経営者・採用担当者の相談や、5,000人を超える就職・転職の相談実績を持つ。